東京高等裁判所 昭和31年(行ナ)3号・昭31年(行ナ)4号 判決
原告の本件発明の要旨は、カムプレートをキヤリツジに固定することなく、互に摺動し得るようにし、螺子によつて緊定することを特徴とする編物機におけるカムプレート装置であつて、編目を調節するのに、カムプレート自身をキヤリツジに対し進退させることによつて、その目的を達せしめるものであることが認められる。その成立に争のない乙第一号証によれば、審決が引用した特許第一二〇四八八号明細書には、屋根形の針床の上面を左右に摺動する摺動笠において、これを上側のものと下側のものとから作り、この下側の笠鈑すなわちカムプレートには、三角形の主カム及び梯形の副カムを設け、上側の笠鈑すなわちキヤリツジに穿つた三条の並行斜溝を貫通して、下鈑に樹立せしめた螺杆をその上面に突出せしめ、その上端に固定用螺子を装して両鈑を一体に緊締し、上下両鈑を前記斜溝に従つて調節して編目を変更せしめることができる横式メリヤス編成機が記載してあることを認めることができる。
よつて右認定にかゝる本件発明の要旨と引用例に記載されたものとを比較すると、両者はカムプレートをキヤリツジに固定することなく、互に摺動し得るようにし、両鈑の位置を螺子によつて緊定するようにした編物機におけるカムプレート装置であり、カムプレート自身をキヤリツジに対し進退させて、編目を調節することを目的とするものである点で全く一致し、同一発明にかゝるものである。そして後者は、前記乙第一号証の記載によつて明らかなように、本件特許出願前である昭和十二年六月十六日特許局発行のものであるから、前者すなわち本件発明は、特許法第四条第二号によつて新規なものではなく、同法第一条に規定する特許要件を具備しないものといわなければならない。
原告は引用例に記載されたものは、工業用編物機であつて、家庭用編物機である本件発明のものとは全く別種なものであるから、前者を以つて後者の新規性を否定することは違法であると主張するが、前記乙第一号証によれば、右引用例に記載された編物機は、工業用及び家庭用のいずれにも使用することができる旨記載されていることが認められるばかりでなく、よし右が工業用編物の専用機械だとしても、本件発明の要旨とするカムプレートの装置に関しては、工業用編物機における考案発明と、家庭用編物機におけるそれとを区別して取り扱わなければならないものとは解されないから、原告の右主張はこれを採用しない。
原告はまた右引用例に記載された編物機は実施不可能のものであり、また同機械と本件出願発明のものとは、全く別種の機械であると主張するが、本件発明が要旨とするカムプレートとキヤリツジとの関係状態に関する限り、前記引用例に記載する装置も、実施不可能のものとは解せられず、また両編物機について、右発明の要旨とする部分については、同一発明に属すべきものと解せられることは、前に説明したとおりであるから、引用例に記載された編物機が、右本件発明の要旨と関係のない部分において,よし実施不可能のものであり、また本件の編物機と相違するものであつたとしても、そのことは、これを引いて本件出願発明の新規性を否定することの妨げとなるものではなく、原告の右主張も、またこれを採用することができない。
以上の理由により、審決には原告主張のような違法な点は認められないから、これが取消を求める原告の本訴請求は理由がなく、棄却を免れない。